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Wednesday, February 27, 2013

「泣くな、はらちゃん」第6話の感想



泣くな、はらちゃん #6 投稿者 yamutya1




第6話はとても切ない話でした。でも、はらちゃんが最もカッコいい回でもありました。
















(第5話)
はらちゃん 「では、越前さん、お願いします。」
越前さん 「はい。じゃあ、また。」
はらちゃん 「また。」


第5話で、ついに両想いとなって、「また」会いましょうと別れるふたり。それまでは偶然に開かれるだけだったノートをきちんと意識して開くのもこれが初めて。そして、第6話では紺野さんの「マキヒロを出してほしい」という頼みを聞いて、その「オマケ」としてはらちゃんが出て来ます。(もちろん、これは越前さんの冗談)


(第6話)
越前さん 「さ、行きましょう。オマケのはらちゃん。」
はらちゃん 「ん? オマケ? オマケとは何でしょう?」
越前さん 「いいから。ほら、行きますよ!」


子供を相手に話すような口調で可愛らしい。物語の前半で越前さんが「ついてこないで!」とたびたび叫んでいたのが嘘のようです。
















(第6話)
はらちゃん 「越前さん、おいしいです。」
越前さん 「よかった。」


そして、9時までの短い時間を居酒屋で過ごします。ここでも、「よかったです」ではなくて、「よかった」と答える越前さん。何気ないセリフにもふたりの関係の大きな変化を感じます。

















でも、越前さんはこの両想いが現実のそれと違うことをきちんと理解しているんですよね。


(第6話)
はらちゃん 「楽しいね、はらちゃんとの恋は。・・・でしょ?」
越前さん 「・・・はい。でも、」
矢口さん 「でも、そのぶん切ないよね。」
越前さん 「はい。」
矢口さん 「楽しいことってのはさぁ、そのぶん、切ないんだよねぇ。楽しいぶん切ない、切ないぶん楽しい。そういうもんなんだよねぇ。」
矢口さん 「結婚か。プロポーズされちゃったねぇ。いいプロポーズだった。」
越前さん 「はい。・・・できるわけないのに、結婚なんて。」


せつない恋ですよね・・・。はらちゃんと越前さんの恋はある意味で遠距離恋愛に似ていると思うのですが、現実の遠距離恋愛だと結婚して一緒に暮らすことが解決策になり得る。でも、このふたりの場合はそれが出来ない。これはつらい恋です。


はらちゃんと越前さんの恋の切なさが描かれるいっぽうで、この第6話では、そもそも、なぜ、はらちゃんが外の世界に出たのか、なぜ、越前さんはノートにマンガを描いていたのか、そういった物語の原点についての確認が行われます。まず、マンガの世界において、視点を戻すための狂言回しを演じるのは笑いおじさんです。


(第6話)
笑いおじさん 「いいか? 問題はな、神様なんだよ。」
はらちゃん 「ちょっと! 越前さんを悪く言うのはやめてくださいよ。」
笑いおじさん 「もともとはよ、神様の機嫌がいつも悪くて、この世界がなんだかおかしなことになっててよ、それを何とかしようって話じゃなかったのかよ? それがよ、恋だか何だか知らねえけど、おまえさぁ、自分のことばっかりじゃねえか。」


そう、そもそも、はらちゃんはこのマンガの世界を明るくするために外の世界を目指したのでした。


(第1話)
ユキ姉 「最近、この世界がなんだか暗く重たいのは、おそらく、われわれの神様の機嫌が悪いからだ。」

(第1話)
笑いおじさん 「その、もうひとつの世界で、神様のご機嫌がよくなれば、オレたちのこの世界も明るくなるってことか、ん?」
ユキ姉 「そうだね。」


さらに、笑いおじさんはこう続けます。


(第6話)

笑いおじさん 「この世界のことなんて全然考えてねえじゃねえか!」
はらちゃん 「そんなことありませんよ! わたしが越前さんを幸せにしたら、この世界は明るくなるんです。」
笑いおじさん 「なってない! 全然明るくなってない! いいか。恋とか言って、ぽーっとしてるからこういうことになるんだよ。」
マキヒロ 「恋は悪いことじゃないです! 素敵なもんです!」
笑いおじさん 「なんだ、おまえまで。どいつもこいつも、恋、恋、恋、恋。外の世界に行って腑抜けになりやがって!」
あっくん 「ぼくは腑抜けになってないですよ、恋なんかしないですし。」
マキヒロ 「犬しか見てないんだろ?」
あっくん 「しょうがないじゃないですか、そんなこと言ったって。」
笑いおじさん 「おまえにはな、外の世界は無理だよ、臆病だからな!」
あっくん 「あー、そうですよっ! 犬、怖いですよ、ぼくはっ!」
はらちゃん 「ちょっとやめましょう、やめましょう。」
笑いおじさん 「恋とか言ってさ、ねぇ、腑抜けになってるやつよりマシか。はっはっはっ。」
マキヒロ 「腑抜けじゃない!」



笑いおじさんというのは、その名の示す通り、若者から見れば「ものわかりの悪いおじさん」でもあるわけですが、言ってることは間違ってないんですよね。そして、ここでのやりとりが示すように、マンガの世界はひとつにまとまっていません。


つぎに、現実世界。こちらで狂言回しを演じるのは越前さんの弟・ひろしです。


(第6話)
越前さん 「あんたに言われたくない。」
ひろし 「姉ちゃん、オレはさ、家族のこと考えてんの、わかる? 姉ちゃんも、もっと考えようよ!」
越前さん 「なに、それ。」
ひろし 「家族のこと、考えるの、当たり前でしょうよ。なんで、そんなこともわかんねえの? ねえ? オレはさ、言っときますけど、ちゃーんと考えてんの。ねえ? おい、聞いてる?」


ほとんどすべての視聴者が「おまえが言うな!」と憤った場面ですが、現実世界ではトリックスターのひろしに言わせるのが最も効果的だったのでしょう。矢口さんだとマンガの世界と現実世界の両方を見渡せてしまいますしね。


ひろし 「姉ちゃん、オレはさ、家族のこと考えてんの、わかる? 姉ちゃんも、もっと考えようよ!」


これはマンガ世界で笑いおじさんが言った「この世界のことなんて全然考えてねえじゃねえか!」とまったく同じメッセージですね。そして、矢口さんではなく、ひろしが問い掛けることの意義はひろしが家族であるということ。この越前家におけるやりとりで「家族」というキーワードが加えられ、物語はクライマックスの岸壁のシーンとなります。


(第6話)
はらちゃん 「越前さん。困ってますね、越前さん。ごめんなさい、わたしが困らせているんですよね。」
越前さん 「はらちゃんのせいじゃないです。」
はらちゃん 「越前さんが困った顔を見るのはつらいです。」
越前さん 「ありがとう。」


はらちゃんは自分がマンガ世界の人間だと知ったあと、少しずつ「自分が何も知らないこと」を自覚していき、それをあやまるようになりました。そして、この場面では自身が越前さんを困らせてしまっていることをしっかりと認識して、「ごめんなさい」とあやまっています。
















(第6話)
越前さん 「はらちゃん。」
はらちゃん 「はい。」
越前さん 「ごめんなさい。」
はらちゃん 「え?」
越前さん 「あたしとあなたとは、結婚とか、できないんです。ごめんなさい。できないの、ごめんなさい。」
はらちゃん 「わたしがマンガの世界の人間だからですか。」
越前さん 「そうです。」
はらちゃん 「そうなんですね。」
越前さん 「はい。」


はらちゃんと同じように「ごめんなさい」という言葉を口にしながら、正直に「結婚できないこと」を伝える越前さん。このとき、「あたしとあなたは」と言っているのが、とても強く印象に残りました。なぜなら、第5話で両想いを伝えるとき、越前さんはこう言っていたからです。


(第5話)
越前さん 「なんだかさっぱりわからないけど、両想いなんです、あたしたちは。だって、あなたのこと、好きに決まってるじゃないですか。あたしがつくったんだから。いちばん好きなキャラなんだから。」


どんなに高い壁があっても、それでも自分たちが両想いであると伝えるために、このときは「あたしたち」とひと括りにしていました。しかし、「結婚できない」と伝えるときは「あたしとあなた」とふたつに分けているんですね。そして、こんなつらいやりとりのあと、はらちゃんは「家族」について次のように語ります。


(第6話)
はらちゃん 「家族っておもしろいですね。」
越前さん 「え?」
はらちゃん 「あんなふうにケンカしても一緒にいるんですよね?」
越前さん 「ええ、家族ですから。」
はらちゃん 「はい。それって、なんだかすてきですよね。結婚しないと出来ないものなんですか、家族って。」
越前さん 「え、いや、そうとは限らないというか、いろんな場合がありますけど。」
はらちゃん 「あぁ、そうですか。じゃあ、わたしの家族はちゃんとマンガのなかにいますね。」
越前さん 「え・・。」
はらちゃん 「ときどきケンカもするんですよ。それでも、ずっと一緒にいます。それって、家族ですよね?」


もう・・・、泣かさないでくれ、はらちゃん・・・。そりゃ、越前さんだって泣きますよ・・・。
















(第6話)
はらちゃん 「ごめんなさい。また何かいやなこと言いましたか? ・・・あ、抱きしめましょうか?」
越前さん 「また、そんなこと・・・」
はらちゃん 「すいません。では、抱きしめません。」
越前さん 「抱きしめてください。」
はらちゃん 「こうですよね?」
越前さん 「はい。」
はらちゃん 「あったかいですね。」
越前さん 「はい。」
はらちゃん 「ずっと、こうしていたいです。」
越前さん 「はい。」















「あったかいですね」という、ごくごく当たり前の言葉が胸にしみます。でも、はらちゃんはこの「あたたかさ」がいつまでも続くものではないとわかっていました。


(第6話)
はらちゃん 「でも、ダメなんですよね。わたしは越前さんを困らせたくないです。」


最初のころ、無邪気に、無邪気すぎるくらいに、「越前さーん!」とその名前を呼んでいたはらちゃんが「越前さんを困らせたくないです。」と言う。そして・・・

















(第6話)
はらちゃん 「越前さんに幸せになってもらいたいので。」


そう言って、はらちゃんは自らノートを開きます。越前さんにただただ会いたくて駆け回っていたはらちゃんが、越前さんを愛するがゆえに、自らノートを開いてマンガの世界へと帰っていく。


















(第6話)
はらちゃん 「ただいま、マキヒロ、あっくん。笑いおじさん、たまちゃん、ただいま。ユキ姉、ただいま。」


グッと涙をこらえてマンガ世界の「家族」のみんなと堅く握手を交わすはらちゃん。ここのはらちゃんは、これまでで最もカッコいい。悲しいけども、でも、ものすごくカッコいい。


(第6話)
はらちゃん 「あー、そうだ! みんな歌いましょ。みんなで歌いましょう。ねえ!」


そして、ケンカしていたみんなをまとめるため、ギターを手に取ってあの「私の世界」を歌う。


(第2話)
マキヒロ 「はらちゃん、はらちゃん、はらちゃん! そろそろ勘弁してもらっていいですか。あの、歌ってね、確かに歌ってね、確かに素晴らしいと思うんですけど、ずっと同じ曲を聴かされると・・・」


そればかり聴かされるとうんざりすることもあるけど、でも、そう言っていたマキヒロですら第3話では、やはり、この「私の世界」を歌っている。わたしはこのマンガ世界は「地方」のメタファーになっていると考えていますが、「私の世界」という歌はマンガ世界における「故郷の歌」なんですよね。


















そして、みんなで肩を組んで歌う。すべてが素晴らしいだなんて言えないけど、でも、故郷とは忘れがたいもの。だから、何かあったら、みんなで同じ歌を歌う。はらちゃんはこのマンガの世界をよくするために外の世界へ行き、そして、この第6話で「故郷」に戻って「家族」と一緒に歌を歌った。
















(第6話)
越前さん 「大好きよ。はらちゃん。」


越前さんははらちゃんへの想いと一緒にマンガのノートを引き出しへとそっとしまいます。



だからおねがいかかわらないで そっとしといてくださいな
だからおねがいかかわらないで わたーしのことはほっといて



第1話において、誰にも干渉されたくない、誰とも関わりたくないという思いから越前さんが綴った言葉が、はらちゃんと知り合い、恋をして、そして、好きなまま別れなければならない場面で歌となって流れる。同じ歌を使うことで、第1話と第6話が対照的に描かれているわけですね。

















そして、与えられた工場長代理という役割を全うする越前さん。第1話でマンガに不満をぶつけていた越前さんはもうここにはいません。


マンガ世界を良くしようとして「違う世界」に向かったはらちゃんも、マンガという「違う世界」で現実世界の鬱憤を晴らしていた越前さんも、「違う世界」に救いを求めることをやめ、自分のいる「世界」にそれぞれ戻っていきました。第6話を見終わったあとに第1話を見返してみると、このふたりが恋によっていかに成長したか、それがよくわかります。そして、この第6話が最終話であったとしても、わたしは納得していたかもしれません。なぜなら、ふたりの恋と成長がきちんと描かれているのですから。